餌の検出:カマキリの場合

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 カマキリはどうやって餌と餌でない物を見分けているのか?カマキリは基本的に動く物体を餌として認識するが、そのサイズ、配置、コントラスト、速度、動き方などが餌認識に影響を与える。

カマキリの餌

   カマキリはその鎌で挟める大きさなら、どんな生き物でも餌として捕らえる。餌の選り好みはしないようだ。野外観察や室内実験によって、チョウ、バッタ、ハチなど、多くの種類の昆虫を餌として捕らえることがわかっている。時には、カエルやトカゲ、小鳥、ネズミなどを捕食することもあるらしい。  では、どうやってカマキリは餌と餌でないものを見分けているのだろうか?

餌刺激の条件

    カマキリは、基本的に動く物体を餌として認識する。しかし、動くものなら何でもよいわけではない。風に吹かれて揺れる草は、動いていても餌ではない。また、カラスやネコなどの大型動物を、餌と認識して立ち向かっていくのは自殺行為だ。カマキリは動く物体の性質のうち、主に以下のものをみて餌かどうかを判断している。

サイズ

餌が大き過ぎても小さ過ぎても、鎌で上手く挟めない。適度なサイズの餌を選ぶ必要がある。ただ、カマキリは餌の実際の大きさがわかっているわけではないようだ。同じ物でも近くにあれば大きく見え、遠くにあれば小さく見える。そんなみかけの大きさで判断しているらしい。

配置

同じ大きさ・形であっても、進行方向によって餌と認識したり、しなかったりする。縦長の長方形を上下に動かすと餌と思って攻撃するが、物体を90度回転させて横長にして上下に動かすと攻撃しない。進行方向側の辺の長さが重要らしい。この前縁の長さが、サイズを表す指標となっている可能性がある。

背景とのコントラスト

コントラストとは、簡単に言えば明るさの違いである。例えば背景が真っ白な場合、灰色の物は(背景との)コントラストが小さいが、黒い物はコントラストが大きい。そしてカマキリはコントラストが大きい後者を攻撃する。またコントラストには、黒地に白か白地に黒か、という方向性の違いもある。この場合は、後者に対して捕獲行動を示す。普通、餌となる生き物がその背景よりも明るく光っていることはないので、コントラストの方向が餌を見分ける手がかりとして利用されてもおかしくない。

速度

基本的に、速く動く物ほど餌として認識されやすい。が、あまりに速過ぎると攻撃しない。カマキリが反応して動く速度の限界を越えてしまうようだ。また、サイズの場合と同じく、実際の速度ではなくカマキリから見た速度が重要である。飛んでいるハエなどはある程度のスピードを出しているので、あまりにゆっくり動くものは餌として認識しないのかもしれない。

動き方

上下左右の中では、下方向への動きを最も好んで攻撃する。また、一定方向ではなく、いろいろな方向へランダムに動かしたほうが餌として魅力的なようだ。餌が歩いたり飛んだりして移動していなくても、動き方によっては餌として認識される。例えば、立ち止まって手足の掃除をする昆虫なども、捕獲行動を引き起こすことがある。

 これら五つの性質以外にも、刺激の位置、移動距離、近接性、背景の動きなどが餌の認識に関わるが、主要な条件ではないのでここでは割愛する。

餌検出の仕組み

 上記のように、餌として認識される刺激の条件は詳細にわかっているが、餌検出の仕組みそのものは未だ解明されていない。ガ、ハエ、バッタなどの脳において、小さな物体の動きに強く興奮する神経細胞が見つかっている。カマキリの脳にもそれらに類似した神経細胞があると考えられているが、その詳細な性質はわかっていない。目下、研究が進められている。  餌を捕まえるには検出するだけでは不十分で、同時にその位置や距離も把握しなければならない。しかし、カマキリが餌の位置を知る仕組みは、全くわかっていない。距離に関しては、人間と同じように両目を使って計ると考えられている。私たちの左右の眼は互いに離れているので、右眼で見る光景と左眼で見る光景は僅かに異なる。この違いは両眼視差と呼ばれ、物体までの距離を測る手がかりとなる。おそらく、カマキリが距離を測る仕組みは人間とは大きく異なるが、両眼視差を利用する点では似たところがある。


山脇兆史