松果体の光受容

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 動物は、光を物の形や色を認識する「視覚」で利用するのに加え、生体リズムの制御などの様々な「視覚以外(非視覚)」の生理機能の調節に用いている。哺乳類を除く多くの脊椎動物において、非視覚の光受容には、松果体や脳深部などの、眼以外の光受容器官の関与が広く知られている。ここでは、眼外光受容器官のひとつとして知られる松果体の光受容について述べる。

  1. contents

松果体の形態的特徴

 松果体は、発生過程で間脳の背側部の膨出により形成される、脊椎動物で広く保存された脳内器官である。哺乳類を除く多くの脊椎動物の松果体は光受容能を持っており、松果体光受容細胞・神経節細胞・グリア細胞などから構成される。後述するように、松果体光受容細胞には、メラトニンの合成・分泌を行う光受容細胞と神経性の光反応を示す光受容細胞の2種類が存在し、哺乳類のメラトニン分泌細胞と合わせて松果体細胞と呼ばれる場合もある。松果体光受容細胞には、形質膜の折りたたみから形成される外節構造など、眼の視細胞に類似した形態的特徴を持つものも存在する。また、その外節には、視覚オプシンや非視覚オプシンなどの多様な光受容タンパク質が含まれており、様々な波長(色)の光を受容している。なお、本学会員である、東京大学の深田吉孝博士と岡野俊行博士(現早稲田大)らは、ニワトリ松果体の光受容細胞で機能する光受容タンパク質を、初めての非視覚型オプシンとして発見し、ピノプシンと命名した。一方で、哺乳類の松果体細胞は、オプシンや光情報伝達分子を含んでいるものの、光受容能は持たないと考えられている。  円口類・魚類における副松果体や、両生類カエルの前頭器官、爬虫類トカゲの頭頂眼といった、松果体と非常に類似した器官(松果体関連器官)を、松果体の近傍にもつ動物もいる。松果体関連器官にも、松果体で見られるような光受容細胞が多数存在しており、直接光を受容できると考えられている。

松果体の光反応

 松果体は主に、メラトニンと呼ばれるホルモンの合成・分泌を行う内分泌器官としての役割を担っている。メラトニンは、概日リズムや光周性に重要な役割を持つことが知られており、その合成・分泌量は、夜多く、昼少ないという日周リズムを示す。また、メラトニンの合成・分泌は、光による制御を受ける。哺乳類では、眼で受容した光情報が松果体にまで伝えられるが、哺乳類以外の脊椎動物では、メラトニンの合成・分泌を行う松果体細胞自身が光を受容できる。  一方で、松果体には、神経性の光反応を示す松果体光受容細胞も存在する。円口類・魚類・両生類・爬虫類などの下等脊椎動物では、松果体やその関連器官において、松果体光受容細胞でキャッチした光情報を電気信号に変換し、神経節細胞で情報統合し、中枢へと伝達するという神経性の光応答機構がある。これらの神経性光応答は神経節細胞で検出されるが、その光応答特性の違いから、明暗応答と波長識別応答の2種類に分類される。円口類ヤツメウナギなどの松果体を用いて、神経節細胞から電気応答を記録すると、暗状態では、継続して神経発火が記録されるが、ある神経節細胞は、可視光を照射すると、一過的に神経発火を抑制するような光反応を示す。この神経節細胞は、どの波長の可視光刺激に対しても同様に抑制性の応答を示すことから、光の明暗を検出するメカニズム(明暗応答)として理解されている。一方で、ある神経節細胞は、紫外光を照射すると神経発火を抑制、可視光を照射すると増大するような光反応を示す。この神経節細胞では、照射光中の紫外光と可視光の比率を検出しており、光の「色」の情報をモニターしていると言える(波長識別応答)。これらの波長識別の生理機能については、夜明けや夕暮れ時の環境光の波長成分の変化をモニターするなど、様々な予想がなされているが、詳細は未だ不明である。

爬虫類トカゲの頭頂眼における光受容

 上述のように、爬虫類トカゲは、頭頂眼と呼ばれる松果体関連器官を持つ。頭頂眼は、眼と同様にレンズと網膜で構成されるが、その中に、非常にユニークな光反応を示す光受容細胞が存在する。具体的には、頭頂眼の光受容細胞から電気応答を記録すると、青色光を照射すると過分極、緑色光を照射すると脱分極する。この光応答は、照射する光の波長によりその応答性を変化させることから、上述の波長識別応答の一種であると言える。脊椎動物においては、眼の視細胞や松果体光受容細胞は、光照射で一過性の過分極応答を示すと報告されており、このような波長依存的な拮抗的な光応答は非常に特徴的である。ユタトカゲ(Uta stansburiana)において、頭頂眼の光受容細胞には、青色光感受性のピノプシンと緑色光感受性のパリエトプシンと呼ばれる2種類の非視覚オプシンが共存し、拮抗的に作用することで、このような光応答を生み出すという新規のメカニズムが報告されている。