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カタユウレイボヤ幼生の遊泳運動

  • 2017/04/03

Summary

ホヤ幼生の遊泳運動を支える力学的素因は,より複雑な体を持つ魚類が示す遊泳運動のものと同等である。近年,このホヤ幼生の研究がきっかけとなり,真骨魚の速筋と遅筋の神経筋シナプス機構の意外な相違,またホヤ幼生と真骨魚の遅筋との間の意外な類似が明らかになった。

 この図は,海産無脊椎動物ホヤ類の一種,カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis )のオタマジャクシ幼生の遊泳運動を示している。色のついた各線は,高速度カメラにより4.2ミリ秒毎で撮影した,動くオタマジャクシ幼生の正中線(太い部分は体幹部の,細い部分は尾部の正中線)を表している。幼生が遊泳運動を行っている際には,尾部の左右に連続した屈曲波がつくられ,前方から後方に向かってその屈曲波が滑らかに伝播していく。すなわち,このホヤ幼生の遊泳運動を支える力学的素因は,より複雑な体を持つ魚類が示す遊泳運動のものと同等である。ただし,カタユウレイボヤ幼生はこの遊泳運動を,片側18個(両側で36個)の筋肉細胞でつくりだす。

 近年,このホヤ幼生の神経筋シナプスの研究が一つのきっかけとなり,真骨魚の速筋と遅筋の神経筋シナプス機構の意外な相違,またホヤ幼生と真骨魚の遅筋との間の意外な類似が明らかになった。名高い「全か無かの法則」の陰には,知られざる興奮-収縮連関機構の多様性が存在しているのかもしれない。図に示したのは1周期半の遊泳運動サイクルであり,正中線の描出は馬場昭次博士(お茶の水女子大学名誉教授)が開発されたソフトウェア“Bohboh”により半自動的に行われた。最初のコマと最後のコマについては,ホヤ幼生のからだのシルエットを重ねてある。背景は人工着色による。

カタユウレイボヤ幼生の遊泳運動

弘前大学 西野敦雄 ・ 大阪医科大学 小野富三人

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.34 No.1 表紙より)

 

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