- 2016/07/07
Summary
チョウが幼虫期に糖とアミノ酸に富んだ「蜜」を栄養報酬としてアリに与えるのは,「気まぐれな」アリの裏切りを効果的に防ぐメカニズムとして進化してきたのではないかと考えられます。
シジミチョウの多くは幼虫期に糖とアミノ酸に富んだ「蜜」を蜜腺から分泌し栄養報酬としてアリに与え,集まったアリは幼虫に随伴しシジミチョウの天敵を排除することが知られています。このような,栄養と防衛を互いに交換し合う相利共生において,アリが報酬を受け取る際に共生相手の匂い成分と蜜を関連付けて学習し,協力行動を変化させること,さらに共生相手はアリが学習しやすい匂いを分泌することで自らの能力をアピールしていることがわかってきました。さらに,ムラサキシジミ(Narathura japonica )の幼虫は分泌物(栄養報酬)をアミメアリ(Pristomyrmex punctatus )に与えることでアリ脳内のドーパミン量を変化させ,より協力的に振舞うようにアリの行動を操作していることもわかってきました。これは,蜜の価値が低くなるとパートナーへの随伴をやめたり,パートナーを食べたりしてしまう「気まぐれな」アリの裏切りを効果的に防ぐメカニズムとして進化してきたのではないかと考えられます。
神戸大学大学院理学研究科 北條 賢
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.33 No.2 表紙より)