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ショウジョウバエを用いたアルツハイマー病における睡眠剥奪の影響

  • 2015/9/4 

Summary

睡眠不足によるアミロイドβ蛋白質の蓄積量の増加は,睡眠不足によってもたらされる神経細胞の「過剰興奮」が原因であることを,アルツハイマー病モデルのショウジョウバエを用いて明らかにした。

 近年,「睡眠不足」がアルツハイマー病の病態因子であると言われているアミロイドβ蛋白質の蓄積を促進させるという報告が相次ぎ,大きな注目を集めています。しかしながら,睡眠がどのようにアミロイドβ蛋白質の蓄積に関与しているかについては,よく分かっていませんでした。今回,睡眠不足によるアミロイドβ蛋白質の蓄積量の増加は,睡眠不足によってもたらされる神経細胞の「過剰興奮」が原因であることを,アルツハイマー病モデルのショウジョウバエを用いて明らかにしました。睡眠不足とアミロイドβの蓄積は,それぞれが神経細胞の興奮性を上げる効果があり,それが同時に神経細胞に作用すると,さらに興奮性が上がり,神経細胞の過剰興奮が起きます。また,アルツハイマー病モデルのショウジョウバエの睡眠は加齢依存的に減少傾向にあります。さらに,これらのアミロイドβの神経細胞の興奮性に対する効果は,抗けいれん薬であるレベチラセタムの投与によって抑制され,これによってアルツハイマー病モデルのショウジョウバエの寿命を引き延ばすことが出来ることが分かりました。これらの結果から,睡眠の欠如は神経の過剰興奮を介してアミロイドβ蛋白質の蓄積を促進させることが明らかとなり,アルツハイマー病の進行遅延のために神経の過剰興奮を防ぐことが有効である可能性が示唆されました。

ジョンズ・ホプキンス大学 田渕 理史

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.32 No.3 表紙より)

 

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